じっと待っている。
一応、犬の話だ。

朝、トーストなどを食べていると、食べ終わりそうな頃を見計らって、ユクが膝もとにやって来てお座りをする。視線は人間の手に注がれ、あるいはその先――机の上に置かれる、こんがりとバターが溶けたトーストを期待して見つめている。撫でてやろうとすると、あからさまに「それじゃない」という顔をして、迷惑そうにする。見逃したくないのだ。

ユクの食事は、人間よりもしっかり管理されている。なるべく良いものを食べて、健康で長生きしてほしい。とはいえ厳格にしているわけでもなく、「少量なら良かろう」と、ついトーストの切れ端をやってしまう。一度そうすると、もらえるものだと学習して、待つようになった。野良犬のようだが、もともと野良生活をしていたのだから、このような術に長けているのかもしれない。

何か食べ物をもらうためなら、あの手この手を使う。多くの人間が喜ぶ“お手”や“おかわり”である。言葉を理解しているというより、ただいろいろ試しているだけのようにも見える。まさに「下手の鉄砲も数撃ちゃ当たる」である。

散歩の帰り道に、必ず通る広場がある。ここでよく近所の犬や、おやつをくれる人に出会う。おやつ目当てなのか、犬目当てなのかは分からないが、ユクはそこで時間を使う。ひとしきり過ごしたあと、遠くを眺めながら座り込む。何かを待っている。

おやつなのか、犬なのか。
その忍耐強く待つ姿に、つい勝手に哀愁を重ねて見てしまう。