風が冷たいと感じる瞬間が増えてきた。
十月も半ばだというのに、まだ夏の名残がそこかしこに残っている。
半袖のシャツで過ごす日も少なくない。そろそろ衣替えをしなければと思いながらも、季節の境目の曖昧さを楽しんでいる私もいる。

涼しくなってくると、良いことがひとつある。ユクが、そっと寄り添ってくれる時間が増えるのだ。毛皮をまとったユクが身体を預けてくると、ぬくもりがこちらまで伝わってくる。夏のあいだは少し暑苦しく感じていたのに、今はただ、うれしい。
結局のところ、どんな季節でもユクがそばにいてくれることが一番うれしいのだけれど。

山道を通る散歩は、まだ始めていない。
スズメバチが怖い。
先日、近所のカフェにユクを連れて行ったときのこと。
ユクがじっと一点を見つめ、警戒している。
その視線の先には、スズメバチがいた。私も思わず身を固くし、すかさずオニヤンマの尻尾のように編み込んだ自家製のパラコードを振りかざした。
幸い、ハチはどこかへ飛び去っていった。
「まだ山は早いな」——そう心の中でつぶやいた。

それでもユクは、少し山を恋しがっているように見える。もう少し広い世界を歩いてみたいのだろうか。ハチは怖いが、涼しくてちょうどいい季節。
アスファルトの上を歩く時間が多いけれど、それもまた気持ちがいい。

ユク坊、もう少ししたら山にも行こう。
風の変化を一緒に感じよう。