大阪出張から帰る日。
たった一泊の出張で、そう長く離れていたわけではない。それでも、私はユクとの再会を心待ちにしている。
しかし、ユクはそうでもない。これまでの経験からわかっている。飛び跳ねて駆け寄ってくるようなことはない犬だ。飛び跳ねて喜びを表現することがないわけでもない。ご飯の前には飛び跳ねている。
見守りカメラやAirTagでユクの様子を遠くから確認する。完全にストーカーである。
カメラにはマイクとスピーカーが付いていて、遠隔から声をかけることもできる。
誰もいないのに声がすれば驚く犬もいるだろうが、ユクは無反応だ。
ふーん、という顔をしている。肝が座っているのか、ただ無関心なのか。いや、他の犬に優しくできない心の狭さを鑑みると、肝が座っているわけでもないのかもしれない。匂いのしないものには興味がないのだろう。
スマホで新幹線の便を簡単に切り替えられるようになった。みどりの窓口に並ばなくていいのは、本当にありがたい。
先週買ったApple Watchで、改札も軽やかに通り抜ける。横目に見た「みどりの窓口」は旅行客で溢れていた。くわばらくわばら。
車内では、いつもの「おかめ弁当」。
以前は珈琲とアイスクリームも一緒に食していたが、やめた。車内販売の珈琲の味が変わってしまったし、アイスクリームを食べないようにしたらすこぶる体調が良くなったからだ。毎晩欠かさず食べていた「チョコモナカジャンボ」も、この夏からすっぱりやめている。
北鎌倉駅に着く。
この季節、駅に降り立つと金木犀の香りがする。
家まで少し早歩き。ユクが苦手な犬とすれ違ったが、今日はユクがいない。問題なし、笑顔で会釈をした。
しばらくすると、向こうに妻とユクの姿が見えた。夕方の散歩を始めたばかりの、いきいきとした姿。浮かれた足取りで踊るように歩くユクが段々と近づいてくる。私に気がつかない。
素通りしようとする犬を呼び止める。
私に気づいたユクが駆け寄ってきた。
喜びの再会——かと思いきや、ユクは私の手をひと舐めして、そのまま走り去ってしまった。
