Apple Watchをずっと身に着けているのは、健康管理のためだ。
とはいえ、これまでそれが命を救ってくれたことはない。アップルのイベントを観ると、必ず「Apple Watchに命を救われました」という映像が流れる。あの布教動画を見ているうちに、私もお布施を払うようにして新製品を買ってしまう。心臓がどうかすれば通知が来るというし、散歩中に転べば妻に連絡が届くらしい。幸いにも、まだ試したことがないので、本当にそうなるのかはわからない。

ユクと散歩をするようになってから、Apple Watchの楽しみが増えた。
GPSが記録する散歩の軌跡は、私たちの日常の地図だ。
この五年間、雨の日も風の日も、毎日どこかを歩いている。
かつて、誰とも話さず、家に籠っていた頃を思えば、なんと健康的なことだろう。
ここ数年は「Apple Watch Ultra」を使っていた。
バッテリーの持ちがよく、デザインも気に入っていた。
チタン製のベルトを合わせると、どこか道具としての風格がある。
しかし、ずっしりと重い。冬にはセーターの袖に収まらず、ワイシャツの袖にいたっては、もはや不可能。

この秋。
アップル社の“ミサ”——つまり新製品発表会——が行われた。
新しいApple Watchは、Ultraと遜色のない画面サイズ、二十四時間のバッテリー、そして二倍の輝度。新色の「スペースグレイ」は、以前のチタンの自然な光沢に近い。しかも数万円で下取りもしてくれる。腕を軽くする、またとない好機だった。
もちろん、自分でもわかっている。
「買う理由」を探している時点で、もう買う気になっているのだ。
一応ChatGPTにも相談してみたが、「買い替えも良さそうですね」と言われた。これを客観的と呼ぶのか。

注文した翌日には届いた。
「買うときは早いのね」と妻が言う。
その通りだ。心変わりする前に身に着けさせるためだ。
想像どおり、軽く、画面も広い。ワイシャツの袖にもすんなり収まる。手持ちのチタンベルトもよく馴染む。よかった。

もう少し涼しくなったら、山道散歩を解禁しようと思う。
腕は軽く、心も軽く。
今のところデータが健康管理に役立つことはない。
ユクと野山を歩くのが、私にとって何よりの健康管理だ。