九月十五日をユクの誕生日と制定している。
保護された犬につき、正確には分からないが、保護されたときの推定月齢から逆算されたものである。

その日、私は大阪にいた。
お誕生日コールはしたが、ユクは電話やFaceTime越しでは反応しない。見守りカメラから話かけても耳を少し動かす程度で、反応は微々たるものだ。匂いや物理的な気配を中心に生きているようである。

私は五年ぶりにステージに立った。ロックバンドでの演奏だ。
結成は三十年以上前のことになる。もうやらないかも知れないな、とここ数年は思ってきたが、出演の依頼があり、それを受けることを決めた。練習スタジオでのリハーサルは二回。私が大阪から神奈川へ引っ越したので、メンバーとは遠距離であり、練習が少なくなるのは致し方ないことではある。もう十年以上この状態でやっている。ただ、ここ五年はやっていなかったので、やはり無理があるのだろう。

五年ぶりにやった割にはよく出来た。声もよく出た。
歌うことによる社会への関わりが心地よかった。常に居心地の悪さを感じて生きることが多い。換言すると居場所がない、という感覚だろうか。人前で演奏をすると、淀んでいた心のくすみが解消された。無意味だと思っていたことも意味のあるものだということに気がついた。
ひと度その経験をしただけで、機嫌が良い。他人にもやさしくなれる。

翌日、機嫌の良いまま、北鎌倉へ帰ってきた。
ユクとの再会だ。
妻から、前日にユクが私の部屋を確認しに行っていた、と聞いた。あいつ居るのかな、くらいには思い出してくれたのだろうか。

玄関ドアを開けると、向こうでユクがブルブルと全身を震わせる音がした。ストレッチをしている影も見えた。お迎えに来てくれた。部屋に入ると、前脚を上げて飛びかかってきた。ユクなりに喜びを表現してくれているように見えた。が、それよりも増して、飼い主のほうが喜んでしまって、犬を圧倒している。

久しぶりにユクと散歩に出かけた。
久しぶりだな、とユクは感じている風ではなかった。いつも通り。

夜はもう一度、お誕生日会を行った。
蒸かしたさつまいもととり肉を混ぜた、妻特製のお誕生日ケーキだ。
六歳になりました。