人生において、これほど海に行った夏はない。小田原では海まで歩いて五分の場所で暮らしていた。それでも砂浜に行くことは稀であった。台風が接近したときなどに高くなった波を見に行ったりはした。たまにバーベキューもした。だが、海に行くことが習慣となるような暮らしではなかった。ベランダから海が見えたので、それで十分だった。

海に集まる酔っ払いが好かない。海に入ったあとに纏わりつく砂が恨めしい。肌がべっとりとする感覚も忌まわしい。
だから、海から足が遠のいてきた。
それなのに、今年の夏は、毎週海に通った。家から一時間もかかるのに、だ。

ユクは海へ行くことが好きだ。
海水浴をしたいわけではない。砂浜に座ってゆっくりしたいだけだ。砂浜ではそんなに匂いも嗅がない。(道中では嗅ぎまくる!)

海の家、と昭和の名称で呼んでいるが、現在のそれは、「海のクラブ」もしくは「海のバー」とでも呼ぶべき形をしている。ドカドカとバスドラムが鳴り響き、ヒャーッという大きな奇声を客が発している。もはや海の家とは呼べない代物である。

このような大きな音や奇声も、ユクはさほど気にならないらしい。ようやっとるなぁ、という顔をして夕涼みをしている。
