投票日。
お昼前に夫婦そろって投票へ行った。投票を済ませたあと、手土産を買う用事もあったので、北鎌倉駅の向こう側まで散歩した。ユクはお留守番だ。そもそも日中の日差しが強すぎて、アスファルトがとても熱くなっている。犬は涼しいお家で昼寝している方がよかろう。

目的の洋菓子店脇にランチを提供しているお店があった。そこで食べて帰ろうか、と話し合ったが、同じお金を使うなら知っている人のお店で使いたいと私は考える質である。普段からユクが散歩中にお世話になっている方がやっておられる店、「カフェメシプーチ」へ行こう、ということになった。
ここ二回ほど、ユクを連れてふらっと立ち寄ったが、お店がお休みでランチプレートをいただけていない。今回は灼熱のお昼間なので、ユクはいないが、人間だけで食べに行くことにした。投票所に行く際に営業していることは確認していたのだ。
お店に入ると、「さすがに今日はユクちゃんはいないね」と言われた。刹那、あれほど、このお店に来ることを楽しみにしていたユクのことが思い出される。やっぱり連れてきてやるか。
「ユクを連れてきてもいいですか?」と尋ねた。「もちろんです!」とお返事いただいたので、私が代表してユクを家に迎えに行った。

外は暑いが、出かけられると分かると、ユクはよろこんだ。
踏み切りの向こう側、橋がかかっているところでユクは怖がって道路に出ようとしてしまうので、踏み切りのところからあらかじめ抱っこして歩き始めた。顔の横にユクの毛がくっついて暑苦しい。地面は熱いので、ユクにとってもこのほうが良いだろう。

抱っこから開放されると、「プーチ」に行くことが分かったらしく、リードを引っ張って走り始めたユク。一目散にドアを入っていった。
入ってからも大変満足げだ。どういう感覚なのか、人間には分からないが、落ち着いた様子で店番をしているような顔をしている。お店に入るとたまにこれをやるので、私たちはこれを番犬ごっこと呼んでいる。

番犬ごっこをしていると利口そうに座っているように見える。だから、何度も「ユクちゃんはお利口だね」と声をかけられた。

犬も人間もとても満足した三度目の正直。他の犬とのいさかいもなく、無事店をあとにすることができた。帰りの踏切待ちで、ユクが後ろ足を上げていた。熱いのだ。見かねて、また抱っこしてやった。さぞ感謝してくれているだろうと思いながら、犬を抱き上げた。あとで妻が撮ってくれた写真を見たら、ユクはとても不服そうな顔で抱っこされていた。
