北鎌倉から鎌倉方面の線路は東西に真っ直ぐだ。つまり、線路に沿う道路を歩くと、うちからは西へ向かうことになる。日の長いこの季節、しばし西陽を浴びながら歩かざるをえない。そうなると心配なのはアスファルトで舗装された地面の温度だ。地に近い犬はその熱を感じやすい。また地面そのものも熱くなっている。犬は私たちのように靴を履いていない。肉球で灼熱の大地を踏みしめなければならない。

そういうことに想像を巡らせていると、自然と日陰を探して歩くことになる。北鎌倉駅までの道を回避すると、鎌倉方面に行くか、明月院のほうへ向かうか、だ。六月の明月院はあじさい目当ての人で溢れかえっている。皆さん、おめかしをして来られているので、すぐに分かる。普段は見かけないようなおしゃれな人たちが明月通りを歩いている。

今日は明月通りルートを選択した。ここは真夏でも日陰が出来ていて、犬の散歩に適している。ユクはさほど暑さを感じることもないのか、いつも通りの元気な歩調で進んでいる。それでも口は開いているので、阿呆そうな顔を晒していないか少し心配ではある。

観光客は気分が上がっているので、ユクに対しても良い言葉をかけてくださる。「ブチだね。良い柄だね」「楽しそうだね」「可愛い!」などなど。若い女性の発する「可愛い!」は反射的なものが多いと感ぜられる。犬を見た瞬間に言っているからだ。全身に毛をまとった生き物を見て、ただ瞬間的に発言しているだけのように見える。まあ、それでも良い。「なんだこの阿呆面した犬は!」とか言われるよりかは気分が良い。

犬自身は、気分も何も関係ないようだ。
久しぶりに来た明月谷の坂道を楽しんでいるようだった。こうも言われた。
「クン活、クン活!あはははは」
