その日の夜、私は柔術の道場に行かねばならなかった。
予定が確定しているものだから、遅めに散歩に出かけて、というような時間的な余裕もない。人間の夜の都合に合わせて犬の散歩を終わらせておかねばならなかった。今週梅雨入りをし、その日も雨がちなお天気だった。
ユクにお散歩の準備をさせた。
お散歩の準備とは、ヤギミルクを飲ませて、玄関土間でハーネスを着けてリードを付ける、という一連のことを指す。準備が整ったので玄関ドアを開けた。外は雨だ。ユクも呆然とした。
とりあえず、戻ろう。
そう言って、玄関に戻った。お天気アプリを確認してみたが、しばらくは止まないようだった。仕方ない、犬にレインコートを着させて、人間も雨合羽を着た。
北鎌倉の線路脇は、下校の学生たちとあじさい寺帰りの観光客でごった返していた。自動車も通る難所である。ただ、晴れているとここは西陽が差し、アスファルトが熱くなるので、雨天のほうが犬にはよい。曇りが最も好都合だけれど、贅沢も言ってられない。
人通りが多くてユクが緊張してなかなか用を足せなかったが、なんとか用も済ませた。
雨宿りなどしながらの散歩も悪くない。
傘をささずに雨の中を歩くことも楽しい。
そういう良さに気づくことができたのは、犬のおかげでもある。