あと半年の命なら何をやめますか?
と言う質問がとある本に書いてあった。
私はしばらく考えてみた。
出てきた答えは「特になし」だった。明日死ぬなら話は別だが、半年先ならすべて今のままでよい。この答えから察するに、私の人生の現時点での自己評価は高い。
やりたいこともいろいろやってきた。それは子供の頃から変わらない。何かを理由に可能性を潰すようなことを私の親はしなかった。そのことにはとても感謝してる。小学生の頃には、天文学者になりたかった。中学生になっても、まだその夢を持っていた。だが、結局実現しなかったのは、私の選択のなせる結果だ。すべて自分の責任において選択をし挑戦してきた。だから現状に満足しているのである。
天文学者になるよりも音楽のほうが楽しくなってしまった。絵を描くセンスはなかったけれど、デザインを論理的に理解したいという気持ちが芽生えた。感覚と理屈のはざまが好きなのは、今も変わらない。
妻と出会ってから、私の人生は一変した。茶道や柔術は妻がいるから続けられているようなものだ。犬を飼いたいと言い始めたのも妻だ。私は犬を飼うことにとても興味はあったが、還暦を過ぎてから実現させるような類のものと思っていた。今思えば還暦を過ぎてからでは遅い。特にユクのような散歩をたくさんさせてあげなければいけないような犬ならなおさらだ。
結果、良いタイミングで犬との暮らしが始まった。
毎日夕刻に犬の散歩に出かけられると言う事はとても幸せなことだ。先の質問でそのことが改めて実感された。今日はユクにゆっくりと匂いを嗅がせてやろう、そう思いながら、犬と散歩に出かけた。何しろユクにとって一日のうちでもっとも楽しみにしている時間だ。
嗅ぐことに夢中になっている犬の後をついていく。
夢中の犬のあとを歩く私も夢の中なのだ。
夢の毎日。それはとても良い毎日ということだろう。