道草を食う。犬の話だ。
この場合、寄り道をするという意味合いではなく、文字通り道草を食っている犬に関する話。近所の飼い犬たちもよく草を食べている。飼い主にも二種類あって、食べないように叱る飼い主と、天然のサラダバーだねぇ、と容認する飼い主に分かれる。私は食べたいなら食べればよいではないか、と当初思っていたが、犬の便が食べた草でつながり、犬も人も大変動揺し珍妙な踊りを嗜んでいるかのように見えることもあり、なるべくなら食べさせないほうが良いと考えるに至った。
しつけの方法は単純なものだ。都度都度食べたら叱る、ということを実践した。ユクは私が叱っていることはすぐに分かるようだ。これには演技力が必要で、へらへらと笑いながら、ユクちゃそれはいけないねぇ、などと叱っても、見透かされて更に悪戯を重ねる。
本当は怒ってないけど、腹の底から怒っているのだ、という演技をしなくてはならない。
私の演技力の甲斐もあり、ユクはまったく道草を食わなくなった。
具体的には、草を食べた瞬間に立ち止まって、語気を強めて犬の口から草を出す。近くの草を千切って犬の目の前に見せ、これを食べてはいけない、ということをさらに認識させる。すると意味は分からずとも、食べたらしかられる、ということが学習されるので、食べなくなる。あとは、しばらくの間、草のにおいを嗅いでいるときに、食べないよ、と少し真面目な声で(重要点)言って聞かせる。これで散歩中の道草を食べることがまったく無くなった。
安心していたのも束の間。
妻が犬を引いて、私は横を歩いていたときのこと。出だしからユクが嬉々として草を食べている。広場へ行ったときなど、まさに大草原のサラダバーだ。
犬はリードを持つ人によって変わる。それは何となく感じていたが、私が横にいても食べてよいという判断になることに驚いた。もう驚いたというよりも面白いので、私は楽しんでいたのだろう。それをユクは見透かしたのだ。こいつ、この状態(妻がリードを持っている状態)で草を食べると喜んでいるぞ、とでも感じ取っているのだろうが。
いつもの倍くらいの量の草を食べまくっている。果たして私の演技力を駆使した草を食べさせないようにするしつけは、一体何だったのか。糞がつながりませんように。