散歩から帰ってくると、ユクの足を拭いたり身体を拭いたりして世話をする。雨の日はドライヤーまでして、ブラッシングをする。ユクの身体をタオルで乾かしているとき、私は子どもの頃を思い出す。父親がお風呂で私の身体を洗ってくれて、出てからも全身をタオルで拭いてくれた。相手は犬だが、私も同じようなことをしているのだな、と思う。あれはいくつのときなのだろうか。記憶があるので、五歳から十歳までの間でのことだろう。
母が入院がちだったので、案外、父との二人生活の記憶が多い。私が十代のころだ。
二人暮らしのときには、父が料理をしてくれた。味付けはしょっぱかった。たまに持ち帰りの牛丼を買ってきてくれることもあった。私は毎日これで良い、と思っていたけれど、さすがにたまにしか牛丼デーはなかった。ユクも毎日「ちゅーる」で良い、と思っていることだろう。
ある日、父がチャイを作ってくれた。どこで情報を得たのだろう。紅茶をミルクで煮出して、案外本格的なものだった。砂糖たっぷりで、とても甘くて美味しかった。チャイが今ほど世間に認知されていない時代だったので、我が家はなかなか早くからチャイを飲んでいたのではなかろうか。
北鎌倉の隣り駅である大船駅近くに、パスタとチャイの店がある。
パスタを食べた後にチャイを飲むとすっきりする。そのお店のチャイはスパイスが利いていて、そのすっきりする感じが強い。一体スパイスをどのような配合にするのだろうか。
じっくり淹れ方だけでも見てやろう、とカウンターからじっと見ていた。
カップにミルクを注いで分量を測る。とても合理的だ。これは真似しよう。
と、次の瞬間、袋からチャッチャッと茶葉を振り入れている。しかも、その袋は市販のチャイの袋に見える。袋に書いてある名前をスマホのメモアプリにすかさずメモる。
お店でチャイをいただいた後、メモった名前で検索してみた。アマゾンで売っているではないか。すぐに購入すると、すぐに届いた。昭和なら輸入雑貨のお店を廻らなければ見つからなかった。コンビニで牛乳も買った。
さっそく家で淹れてみた。お店と同じ香りが漂ってくる。飲んだ。同じだ。完全再現。
気を良くしてこのところ、チャイばかり飲んでいる。