久しぶりの海。
鎌倉方面へ散歩しても、小町で鶴岡八幡宮方面へ歩き始める。つまり帰途に就くわけだ。段葛を家の方向に歩き始めると、ユクは気づく。いや、こっちではない、海はお尻の方向だ、と。ユクをなだめすかしながら、なんとか北鎌倉のほうへ帰って来ることを繰り返していると、ユクが鎌倉方面を選択しないようになった。どうせ海に行けないのだから鎌倉のほうへ行っても仕方ない、ということだろうか。
その日。
鎌倉方面に引っ張ってやると、ちょっとおかしいな、という表情で一応歩き始めた。首の悪い私を気遣って、妻がリードを持ってくれた。私たち夫婦が引率者なのに、二人と一匹で歩き始めると、ユクがとても張り切って歩く。グイグイ引っ張っていく。五歳と数ヶ月になるが、引っ張り癖はなおっていない。なおるのか?
まるでリーダーであるかのように先頭を歩く犬は、右へ左へ匂いを嗅ぎ回ることに忙しい。しつけがなっていないと思われないように、ユクとの距離を開けないように歩くが、まぁ、皆にバレているだろう。この「クン活」の時間が長く、なかなか海に到達しない。
海に着くと、今度は久しぶりの海にうれしさが爆発して、海岸を激走する。ついて行く妻も大変そうだ。リードを持ってもらっていて良かった。激走する割にやはり波打ち際までは行かない。水が怖いからだ。適度な距離を保ったところで停止し、海や人々を眺めて楽しんでいる。まもなく陽が落ちる。
私がiPhoneで写真を撮りながら、「金曜ロードショーのようだね」と言うと、妻は無反応であった。知らないのだ。世代ギャップ。妻は「ギャランドゥ」をへそ毛のことを指すことは知っていたが、それが西城秀樹の歌であり、西城秀樹のへそ毛に由来することは知らなかった。それが世代ギャップだ。
帰りにはクアアイナに寄って、テラス席でハンバーガーを食べた。ユクにもバンズの切れ端をやった。はち切れそうになったお腹を抱えながら私は北鎌倉まで歩いた。お腹いっぱいで苦しいなんて。と、幸せを感じた。