ユクはシャンプーが苦手だ。
シャンプーというより、水に濡れることを嫌う。
水に濡れるのが嫌なのに、雨上がりの泥んこの上を平気で歩いて匂いを嗅ぎ回る。濡れることより嗅ぐことのほうが優先順位が高いらしい。雨の日の散歩も渋る。行く気を見せない。そうかと思えば、小雨なら遠くまで匂いの確認に行く。匂いパトロールに付き合わされるこちらはずぶ濡れである。
雨の日の散歩から帰宅すると、ユクの足は泥だらけ。いつものような足拭き用のタオルなどでは到底拭いきれない。そういう日は風呂場まで連れて行って、足元だけをシャワーで洗ってやる。風呂場は大嫌いなので、抱っこして連れて行く。ところがそのうち足だけとわかっていれば、自分でトコトコ風呂場までやってくるようになった。泥んこの足で部屋の中を歩かれても困るので、抱っこする。シャンプーのときと違って、お風呂場が平気になるのが不思議だ。
シャンプーのときも十回に一回くらいは自分で風呂場までやってくる。しかし、それくらい稀だ。相変わらず、隅っこで震えて小さくなっている。そんなユクを抱き上げて風呂場へ連れて行く。
ユクのなかでは、「人間たちが自分の身体に付いた匂いを取り払い、変な匂いを付ける儀式」くらいに思っているのだろう。洗ってやっている、きれいにしてやっている、とはまったく思ってないようだ。
終わったら部屋中を駆け回り、その開放感を表現する。