夏日がまぎれて、なかなか秋の判定も難しい感じの日々が続いた。それでも茶の湯では炉開きが行われ、亥の子餅が食べられる。日付が決まっているからだ。涼しくなったので、炉にしますか、ということではない。亥の月、亥の日に炉が開かれる。今年も亥の子餅とおぜんざいをよばれた。
北鎌倉にも観光客が増えてきた。
山を歩く格好の方も多い。紅葉狩りだろう。禅寺に紅葉はよく似合う。枯れた美しさが古刹の雰囲気と合うのだ。円覚寺は、階段で記念撮影をされている人たちで賑わっている。
ユクはもちろん、紅い葉などには興味がない。ひたすら地面や木の根っ子あたりの匂いを嗅いでいる。観光客が連れている犬たちが痕跡を残すのだ。普段自分が歩いているところに見知らぬ犬の匂いが残っていて、それを調査して回っているように見える。いつもの感じと少し違う。ユクが教えてくれるわけではないので、実際のところ、何を思いながらクンクンしているのかは分からない。
山の紅葉に夕陽が当たる。
この光景が好きだ。
錦秋というには及ばないのかもしれないが、とても美しい。太陽は刻一刻と動いて沈もうとしている。だから、今の輝きは今しかない。数分でまた違う景色になってしまう。そう考えると、たまたま小高いところへやってきて、小さな錦秋に出会ったときの貴重な刹那と感じられる。
人生が後半になると、紅葉が身に沁むようになってくる。
蚊が飛ばなくなり、鬱蒼と茂った草もなくなってくるこの季節は、犬を連れて山道を歩くのに適している。冬の紅葉を楽しもう。そして刹那を生きる。