十一月。今月最初の茶の稽古では、炉開きが行われた。畳の上に炉が置かれる風炉から、畳面の下側に炉を構える状態へと変わる。つまりは、冬の茶になる、というタイミングである。
そんな時節がらでありながら、暑い。
風は少し冷たく感じられることもあるが、それも朝晩だけのことで、日中は汗がにじむほどに暖かくなる。
このような季節には海が丁度良い。
海の家はとっくに撤去されていて、砂浜は広々と感じられる。犬を海に連れて行ってやろう。
ユクは海が大好きだ。何度も書いているように、海が好きというのは、砂浜に居ることが好きなのであって、海に入って泳ぐのが好き、という意味ではない。あと三メートルの所で必ず引き返す。水は大嫌いなのだ。
ここのところ、日々の散歩で鎌倉方面に来ても、浜まで行くことなく折り返して帰ってきていた。海はあっちなんだけどなぁ、と何度も振り返るユクを不憫に思いながらも、暗くなるのも早いし、断念してきた。
今日はユクの大好きなテントも持って行く。準備万端だ。
途中のコンビニで犬のおやつと人間の飲み物も買う。久しぶりのコンビニおやつにユクは立ち上がって喜んでいる。
海に着いた。
さっそく場所を定めて、テントを広げる。円盤状に折り畳んであるものを、パッと解放してやるとテントになる。あら不思議である。こんなものが私の幼少時代にあったなら、秘密基地遊びもはかどっただろう。広げたテントの四隅を小さな杭で止める必要があるのだけれど、ユクはその時間を待ちきれない。広げた瞬間にテントに入り、鎮座するのである。
その様子が可笑しくて、私たち夫婦は笑いながら杭打ちをする。アウトドア慣れしていない私は、妻に叱られながら杭打ちをする。どちらの方向に斜めに打つか、咄嗟に分からないのだ。「考えて!」と妻に激励されながら、なんとか役目を果たす。ユクは偉そうにテントの真ん中に座っている。
ユクは海も好きだが、浜にテントを張って、その中に座し、よその犬が近付いて来ないように監視業務をすることが好き、というのが正確な表現だ。
基本的にのんびり寝ることはなく、ジッと監視している。急に吠え出したりしないようになだめてやる必要があるので、私達人間もおちおち寝てもいられない。監視するユクを監視する業務に追われるのだ。
テントという自分の縄張りを主張する遊びの一環なのだろう。遊びと言っても、ユクは真剣そのものだ。遊びだろ、と馬鹿にしてはいけない。人の一生もこのような遊びなのだから。