膝がかっくんとなる。
ぎりぎり犬の話だ。
人間のほうも、今春に膝を大怪我した。びっこを引きながら犬の散歩をしていたら、近所の空手の先生がうれしそうに心配してくれた。格闘技なんて怪我してなんぼということなのだろう。正座もできなかったので、とうとう自分の茶人生命も絶たれたかと正座をしない流派でも始めようかと悶々としていたところ、約半年ほど経って、なんと正座ができるようになってきた。人間の回復力も捨てたものではない。いや、中年(あるいは初老?)の細胞再生力も大したものだと思う。
細胞再生力などという適当なことをのたまうと理系の妻にまた𠮟られそうだ。
話は随分と逸れたが、犬の話である。
ユクは保護されたときから左脚が良くない。骨折をした跡があるらしい。左脚の太腿はあまり発達していない。つまり使っていないようだ。おそらく歩き方を見ていると、前脚で推進力のほとんどを生み出している感じがする。後ろ脚は、悪くない右脚でさえ、あまり使っていない。歩き方はトコトコトコトコして可愛い(飼い主バイアス)。
走り方にも脚が悪い犬の特徴が見られる。後ろ脚を、ジャンプするときのようにそろえて走るのだ。それでも走るときは走るしお馬鹿になるときはなる。脚が悪くて困っている、という感じは一切見せない。
人間からすると、それは「受け入れ」と見える。不平不満を言わず、今持っている手札でできる限りのことをする。そのような姿勢を貫いているかのようだ。
実際、「膝が悪いので、歩きにくいわ〜」と嘆いたところで何も変わらない。何も変わらないのだ。
ここ数日、何もない所でユクの膝がかっくんとなる。キャンとは言わないので痛みが走っている感じではなさそうだ。かっくんとなるだけで、何もなかったかのように散歩を続ける。私の膝も怪我で靭帯が伸び、少し緩さを感じる。ユクの膝の靭帯も怪我で伸びているのだろうか。
昨日の午後の散歩では二回かっくんが見られた。今朝の散歩では一回。人間なら膝周りの筋肉を鍛えて安定性を図る、といった方針が取られる。犬の場合は、犬にその方針を理解させることができないので飼い主が工夫するしかない。手で抵抗を与えて、スクワットしたような効果を狙ってみようか。
ステルスなリハビリを試みてみようと思う。