と、いえば大げさだが、犬の体内時計が正確だな、というお話だ。ユクは夏になると四時半くらいに起き、冬は六時頃にもぞもぞし始める。起きる時刻に関しては、何時に寝たかということとあまり関係していないように思う。夜中十二時を過ぎてから寝ても、起きる時刻は変わらない。
起きる時刻については、日の出と大きく関係しているのだろう。要するに江戸時代の人間のように日が沈めば活動を止めて、寝る準備をして、日が昇るタイミングで起きて活動し始める。そういうことだろう。これが自然のリズムといえば、まあそういうことになる。
不思議なのはお昼の時間だ。
決まって正午前にユクが、私の二階の仕事場へやってくる。私は必ず大歓迎するようにしている。叱ったりして来てもらえなくなるのは寂しいので、そうしている。
二階へ来たユクは、歩み寄ってきて、マズルを私の膝頭に押し付ける。いや、実際には触るか触らないかくらいのタッチだ。遠慮があるのだろうか。
私は手のひらをユクに見せながら応える。
「もう少し待ってね。仕事してるからね。マテだよマテ」
ユクはオスワリをして、ジッとこちらを見ている。すごい圧力を感じて、仕事どころではない。おそらくそれも分かったうえでのオスワリだと思われる。圧力に屈することなく、仕事を続行する。すると、ユクも諦めて、床に置いてある自分用のベッドで待機し始める。これでゆっくりと仕事ができる。わけではない。
キーボードから手を離した、電話を切った、椅子の背もたれに身体を預けた、その刹那、ユクはすっくと立ち上がり、ブルブルと身体を振る動作をしてまたオスワリをし、こちらをジッと見つめ始める。お分かりだろうか。キーボードがら手を離したり、背もたれに身体を預けたりできないのだ。まったく仕事に集中できない。むしろキーボード操作や自分の身体の動きに最新の注意を払うことになり、仕事どころではなくなる。
そして私は折れて、ユクと一階へ降りるのである。正午前にやってくるのは腹時計なのだろうか。お昼におやつをやっていないので、腹ではないな。体内時計ということにしておこう。正確な体内時計。不思議だ。ユクの体内時計とともに生きることが自然とともに生きることになっているということでよろしいでしょうか。