ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

小学生並み、とは。角膜内皮細胞を検査してもらった飼い主。

私は人生で一度、手術を経験している。
ブラジリアン柔術の試合中に、相手の指が目に入った。試合の瞬間は大丈夫だったのだけど、終わっても眼の前に黒いものが見えていた。装着していたコンタクトレンズに傷が入ったか何かかな、くらいに考えていたのだけど、コンタクトレンズを外しても、寝て翌朝になっても黒いものが消えない。

月曜の朝から眼科に行った。
網膜剥離と診断された。網膜剥離の何たるか、を知らなかったので、かなりショックを受けた。なんとなくボクサー生命が絶たれるものである、ことくらいは知っていた。柔術を始めて二年目くらいだった。せっかく楽しく取り組んで来たのに、もうできなくなるのか、と思った。

目を大きく開けてくださーい。(口は開けなくて結構)

網膜剥離を治す手術を大学の附属病院で受けた。
「硝子体手術」というもので、眼球の水分を一旦抜いて、その奥の網膜の剥離をくっつけて、水分と一緒にガスを注入して、というような手術だ。局所麻酔で行われた。眼の下の部分に容赦なく麻酔の注射針が刺さる。こんなところに針を!と思う間もなく、液体が注入される。と、同時に目の前が渦巻いた。ウルトラQのオープニング映像のように、本当に目の前が渦を巻き、真っ暗になった。心のなかで、「見えなくなりましたが、これで合ってるのでしょうか?」と叫んだ。本当に叫ぶこともできただろうが、こらえた。

手術終わったかな?

手術は二時間半くらいだったろうか。もう少し長かったか。
無事終わった。目の水分を抜かれている状態で、もし地震が来たらどうなるのだろうか。そのようなことばかり考えていた。地震も停電もなかったので、本当に安心した。

それからしばらく、治した網膜を安定させるため、体勢を固定したまま安静にする日々が続いた。ガスが入っているので、眼の前に水平線が見えていた。水平線が下がっていくということは、ガスが消えていくということらしい。

もう10年かぁ。(ユクはまだ4歳です)

あれから十年くらい経つ。
おかげさまで目の調子はよい。ただ、硝子体手術をしたときに水晶体は人工レンズに変更されたので、単焦点になってしまった。自分でピントの調節ができないので、遠く用のメガネ、近く用のメガネ、とメガネが沢山必要だ。今はとても安く、しかも半年くらいは度数変更なども無料で行ってくれるメガネ屋さんが増えたので、とても助かった。

先日、さすがに小田原の眼科も遠いので、鎌倉で新しい眼科を探して行くことにした。
今回は様子をうかがうため、コンタクトレンズの購入だけにしようと考えていたが、流れで散瞳(薬で瞳孔を開く)して、網膜の検査をすることになった。

私の目の中を見て、驚きも交えて先生は仰った。
「とても腕の良い先生だったのですね」
硝子体手術をした眼としては、とても状態が良いとのことだった。

ついでに、「角膜内皮細胞」の検査も行ってくれた。角膜内皮細胞というのは、黒目の透明度を維持するために重要な細胞だそうで、損傷すると再生しないそうだ。つまり、減る一方。コンタクトレンズを長く装着していたり、寝ているときも着けていたりすると、その細胞に良くないらしい。
私は高校生の頃からコンタクトレンズ生活だが、その頃は、一週間着けっぱなしということもよくあった。酷いに違いない。

ところが、これも何故か手術した方の眼の状態が良かった。
「小学生並み」と先生が仰った。

「小学生並み」と言われて喜ぶこともあることに驚いたが、帰り道はとても気分が良かった。

そうだな、確かに「ない」な。

ユクも去勢のため、手術を経験している。
もちろん全身麻酔だろう。ふらふら自由にしていたところを捕らえられて、手術されて、と怖かっただろうな。今でも動物病院が嫌いだし、診察台には絶対に乗らない。

手術しなくていいように、毎日の歯磨きからしっかりやろうぜ!