ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

小さな勝負。

大げさに言えば縁起を担ぐということなのだろう。子供の頃から繰り返しやっていることがある。救急車の音が聞こえたら親指を隠すとか、靴は決めた側から履くとか、参道で右側を歩くとか。もっとくだらないことも沢山ある。色の付いたタイルを避けて歩いてみたり、左右に外れないようにまっすぐに歩く努力をしてみたり。要するに、日常に行う小さなゲームのような感じだ。

トロールの範囲は広い。

縁起を担ぐというより、願掛けみたいなものか。これができれば志望校に受かる、というようなこともやっていたかも知れない。そんなことをやっている暇があれば漢字の一つでも覚えれば良いのに。

デジタル時計のストップウォッチ機能を使って、十秒ゼロゼロ丁度で止めるチャレンジもやっていた。そんなことをして何になる。だがこのような小さな勝負を日々行っていた。

起きたか?

朝起きると、ユクも起きる。実際にはユクのほうが早く起きているが、人間が起きるまで、待ってくれている。寝るときは外していた首輪を装着し、階段の前でさらに待機するユク。私は自室に行き、パジャマから部屋着に着替える。階段の踊り場まで行くと、ユクが待っている。さ、降りようか、と声をかけて、ユクより先に階段を下り始める。

ユクはしばらくしてから、すごい速さで階段を下り、私の足下を通過、一階のリビングに到達する。少し、どうだ、という顔つきをしている。階段を下りるときは毎回これをやる。

先に行きたいユク坊。

少しハンデを付けておいて、追い抜くことを楽しんでいるように感じる。一度、こちらも負けじと速度を上げて階段を下りて、先に一階に到達してみた。ユクはとても興奮していた。負けて悔しかったのだと思う。そのときに、ユクは勝負を楽しんでいるのだと確信した。

小さな勝負。
分かるぞ、その気持ち。

狭いほどチャレンジしたくなる。