ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

犬には必要のないファッション。

二十代の半ば、英国に一ヶ月間滞在した。
留学でも何でもない。会社を辞めて無職となり、自由な時間を創出して、海外に飛び出したのだった。会社は入社してからずっと辛かった。会社の人たちは、先輩も同僚もとても良い人ばかりで、仲良くさせてもらった。嫌だったのは敷かれたレールに載っかっているような自分自身だったのだろう。

レールに載るのはごめんだ。

音楽で食べて行きたいと考えていた。しかし、真剣に売ること、売れることは考えていなかった。そこが矛盾している。音楽をビジネスとして話す「業界」の人たちのことを毛嫌いしていた。売れなければ食べて行けないのに。そういう妙な純粋さが音楽で身を立てられなかった大きな要因であろう。

外でへらへらやってます。

話を英国に戻す。
ロンドンでは、白髪混じりの女性が髪の毛をツンツンに立てて、革ジャンを着ていたりした。ライブハウスにも老若男女集まっていた。個人が好きに生きていく、ということが社会として成立していることに感心した。個人が好き勝手にやっているわけではなく、個人が自由にやっていくために、皆で守るルールがしっかりと守られているというような印象を持った。

英国で感じたような個人主義は、日本では実現しないだろうと思う。

皆がそれぞれに自分の好きなスタイルを持っている英国の素晴らしさを感じて帰国した。だが二週間もすれば、また日本の感覚に染まってしまう。気持ちはそう長く続かない。

ファッションによって、他者との関係をコントロールするのは人間の特徴だ。犬にはそんなものはないだろう。

犬のファッションは、完全に飼い主である人間の勝手な押し付けである。可愛かろうが似合っていようが、犬には関係のないことだ。
そんな、人間の勝手な行動を、ユクは甘んじて受け入れる。その顔は「悪い気はしない」と見えることすらある。

褒めそやされて、悪い気はしない顔。

犬の生活に全く関係のないファッションではあるが、雨の日の合羽はなかなかに機能的でしょ?ユク坊。

ま、そうかもね。