ジムを移籍して、おかげさまでよく稽古に行けるようになった。
ブラジリアン柔術の話だ。
引っ越しを機にフィットネスジムを近所の施設に変更する、というようなことと、ブラジリアン柔術のジムを移籍することとは少し違う。ブラジリアン柔術には、帯の認定制度がある、つまり所属している先生から「帯を出してもらう」必要がある。空手や柔道に比較すると、少し緩い感じのするブラジリアン柔術のジムでも、そこに師弟関係が必ずある。師弟関係がある以上、ジムを移籍するということは師匠を変えるということにも繋がるのだ。
それ故、なかなか移籍については、時間をかけて悩んだ。
往復二時間はかかる距離となってしまっても、しばらくは頑張って通っていた。
やはり問題は距離だ。
遠いと稽古に行けない。習い事というものは、行かなくなると、余計に行かなくなる。間が開くと、行きにくくもなる。コロナウイルスのパンデミック、外出自粛などとも相まって、三年ほど、ほとんど稽古に行けなかった。負のスパイラルは増大する。
これではブラジリアン柔術を楽しむこともできないし、そもそも運動不足解消のためにやっていることでもある。矛盾甚だしい。
そして一年前。とうとうジムの移籍を決めた。
恐る恐るではあったが、皆がブラジリアン柔術を楽しみに来ているのである。話のきっかけを探る必要もない。すでに共通の趣味を持っている人たちとの交流である。見学に行った日に声をかけてくださる人がいたし、安心してまた始められた。
ジムが近くになったことは、犬にとっても良いことだ。留守番をする時間が短くて済む。ユクは留守番ができる犬だ。ケージに閉じ込めておかなくても、何ら悪さをする様子もない。食べ物を探ることもないし、物を破壊することもしない。
ただ、私は普段から家で仕事をしているので、ユクが長時間留守番をすることは少ない。ユクは文句を言わないが、こちらが気になる。犬を放置して出掛けることに心が痛むのだ。
これもあった。
稽古時間を合わせて、一度ジムへ行くと四時間くらいお留守番をさせなければいけないと考えると、今日は休もうか、となってしまうことも多かった。
近所のジムに変えてからは、行きやすくなったのは間違いない。
それでもユクは夕方の散歩後、私の出掛ける雰囲気に気づく。
気づいてどうするかと言えば、二階の私の部屋にとことことついてくる。ジムへ行くために仕事の残りを整理している私の横へ来て、行かせないよ、の空気を作り出す。
私が出掛けてしまう直前には、ユクは悪あがきをしない。
ああ、お前は出掛けるのだな、という達観した様子で、おとなしくしている。
達観できないのは人間のほうである。