ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

なぎさ橋珈琲へユクとゆく。

鎌倉から逗子へ向かう海岸線を車で走る。
右手に海が見えて、大変心地よい。週末は渋滞もするが、海の前なので、そんなに苦にならない。同じような光景(といえば関東の人に怒られそうだが)が神戸の方にもある。須磨から塩屋、舞子を走る国道2号線がそうだ。初めて江ノ電に乗ったときも、須磨の海岸沿いを走る山陽電鉄と同じではないか、と思った。(といえば関東の人に怒られそうだ)

富士山も江ノ島も、須磨にはないけどね。(淡路島なら……)

こういう眺めのいい道路は、追突事故の危険も多い。だから、なるべく海に気を取られず、前を見てハンドルを握った。その昔、私が自動車学校に通っているとき、その、舞子の海岸沿い道路を走った。昼間で海面の光が輝いていて、とても気持ち良かった。「前を見なさい!」と助手席の教官に叱られた。その直後、ウインカーと逆側にハンドルを切って、さらに叱られた。眺めのいい道路は危ない。

ユク坊、海の眺め……

目的地である「なぎさ橋珈琲」は、元は「デニーズ」というファミリーレストランだったそうだ。関西にデニーズは少ない。ほとんど見たことがない。関西からやってきた者として、デニーズは憧れでもある。青春を感じる。知らんけど。

くるま大好き犬。

ユクは自動車でのお出かけが大好きで、車内では大変お利口にしている。少し開けた後部座席の窓の隙間から鼻を出して、道中の匂いを嗅ぐことも趣味なようだ。この日もユクは鼻を出して匂いを嗅ごうとしていた。その矢先、誤って私がパワーウインドウを締めてしまった。キャイン!と悲痛な声を上げて、しばらくいじけていた。大変悪いことをした。幸い鼻やマズルはなんともなかった。これからは絶対に挟まないので、どうか忘れて欲しい。車を好きでいて欲しい。しばらくしてからまた窓の隙間から匂いを嗅いでいたので、少しは忘れてくれたのかも知れない。

ここがなぎさ橋珈琲!

なぎさ橋珈琲に着いた。
たしかにファミリーレストランの風情を残している。それも「昭和の」ファミリーレストランだ。ドリンクバーを飲みながらだらだら過ごすことは、もうこの歳では興味がないが、そのような若者を沢山受け入れてきたであろう歴史がそこかしこに感じられる。

テラス席は犬連れがOKである。予約票に名前を記入して、約一時間周辺を散歩して待った。「なぎさバーガー」というものが食べたかった。事前にインターネットで調べておいた。水出し珈琲も美味しいと評判だったので、一緒に注文した。

なぎさバーガー。

ユクとカフェに来たことは何度かある。大体はあちらこちらへ行こうとするユクを制することが大変で、ゆっくりとした記憶はない。今回も片手にリード、片手にハンバーガーとなることは覚悟していた。しかし、ユクは案外お利口に待ってくれた。家で人間が食事をしているとき、お利口にしていればおやつがもらえるという習慣を身に付けさせたことが功を奏した。

お利口の限界が近づいたユク坊がすり寄る。

これまでで一番ゆっくりできたかも知れない。テラスは広いし、眺めはいいし、ハンバーガーは勿論美味しいし、これはまた来たいな、と思いながら食べた。「また来たいな」と言いながら食べることが、あるレストランに対する最高の表現ではないか、と常々思う。

最近目に付く、ユクの「番犬気質」がここでも発揮された。
吠えるわけではなかったが、伏せながら一八〇度、右や左を監視していた。ユクが唸るので、そちらを振り向くと、後ろに座っていたお客さんがスマートフォンを出して、海を撮影しようとしたところであった。ユクはまるで、「何撮ってるだ?」と言わんばかりだ。

私の後ろで「お仕事中」のユク坊。

ユクを連れて行くことはとても大変だ。だが、とても楽しい。
ユクは監視業務に疲れたのか、その夜と次の日のお昼間、よく寝ていた。