大変気に入っていたスウェットがある。胸にはネイティブアメリカンの絵がプリントされている。十年くらいは着ているだろうか。絵が付いていると飽きてしまいがちであるが、この図柄についてはまったくそういうことがなかった。袖口がほつれてきて、少しみすぼらしい感じになってきた。
お気に入りなので、同じブランドの同じ品番の物をネットで注文した。こんどは無地で絵は付いていないものにした。届いた物を見てみると、風合いが少し違う。何度も洗濯を繰り返してきた物と比べているから当たり前なのか。袖口のリブの長さも違う。いろいろと改変されているのかもしれない。
同じ物が欲しいのに、それがない場合はよくある。それが怖くて同じ物を複数買い、ストックしておく人もいる。私はそこまでする気合いがないので、買い替え時に違いに気づき狼狽える。
茶の湯の席で掛けられる軸に、「一期一会」という言葉がある。特に茶席では、同じ席は二度となく、このひとときを大切に想いましょう、というようなことを思い起こさせるために用いられる。
有名な言葉なので、知っている人も多いだろう。またこれは、茶席に限らず、この世界に生きている限り、必ず当てはまるものでもある。同じことの繰り返し、ということは厳密に言えばない。無常だ。
毎日同じ場所へユクを連れて散歩に行く。お散歩コースはいくつかあるが、必ず通る場所はある。同じ場所ではあるが、毎日同じではない。朝と晩でも違う。ユクは懸命に匂いを嗅いでいて、そのことが分かっているようにも見える。匂いを中心とした世界観は、私たち人間とはまったく違うものなのだろう。
いつもの広場でクン活を楽しんでいるユクを見ていたら、届いたスウェットの微差など、まあ良いか、となぜか思えた。