ユクという名前の由来は、アイヌ語の鹿だ。もちろん、この犬の、鹿のような柄から名付けられたものだ。鹿は茶色地に白い斑点なので、ユクの場合は実際とは逆だ。
散歩のとき、出会った犬の飼い主さんとお互いの犬の名前を告げ合う。
ユクといいます、と申し上げると、大概は聞き返される。このとき、もっともすんなりと理解されるのは、「竜馬がゆく」のユクです、と言うことだ。しかし、そのままでは、まるで「竜馬がゆく」に感銘を受けて名付けられたような印象になってしまう。追加説明をする間もなく、竜馬から名付けられたのだ、と誤って伝わってしまったケースもあるような気がする。どこへでもゆくのユクです、と言ったこともあったが、それでは（実際その傾向があるにせよ）、ユクは色んなところへ行ってしまうお馬鹿な犬です、と紹介しているようで心痛い。
最近では、マスク越しなので口の形は見えないが、はっきりと口を開き、大きな声で、ユクといいます、と告げている。聞き返されてももう一度、ユクです、と繰り返すことにしている。そして、すかさず、「アイヌ語で鹿の意味なんです」と添える。すると、次回お会いしたとき、「あ、鹿ちゃんね」と憶えておいてくださる。ユクは憶えにくいが、鹿なら記憶に残りやすい。
竜馬だ鹿だと言わずとも、「ユクちゃんね！」と、さらりと声をかけてくださる女性もいらっしゃる。一体どのように犬の名前を記憶されているのだろう。犬種の識別や記憶すら怪しい私としては、本当にうらやましい能力である。
